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洗い屋本舗営業中!/原案:早川ふう/脚本:Snowdrop Kiss/25分/【1:2】

 

 

 

【登場人物紹介】

 

相馬賢太郎(そうま けんたろう)♂

 転校したことでちょっとやさぐれてはいるが、
 一応素直で優しい男の子。
 奔放な両親のせいで、しっかりしている。
 高校二年生、17歳。


新井ササラ(あらい ささら)♀

 一直線の熱血少女(19歳)
 田舎で可愛がられるタイプ。多少距離ナシだが憎めない。
 中学生のとき、祖父の姿をみて洗い屋を継ぐことを志し、
 卒業後、弟子入りし、二年修行した後、高校に入学する。今は二足のわらじ。


賢太郎の母 ♀

 明るくてちょっと抜けてるお母さん。
 ただし、ほんわかしている天然ではない。
 テキパキしてるのにどこか抜けており、「ごっめーん!アハハ」
 つまりは色気皆無なおばちゃんタイプ。
 年齢は40代前半。


梅(うめ)♀

 座敷童の少女。見た目年齢は五歳程度。
 事情が事情なだけに台詞の大半泣いていますが、
 存分に可愛さMAXのキャラで大丈夫です。 


 ※ 台詞数に偏りがありますので、声劇で演じる際は、母と梅はかぶり推奨です。

 

 

 

【配役表】

賢太郎・・・

ササラ・・・

梅&母・・・
 

 
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
​台本に関するお問合せは、メールフォームよりお気軽にどうぞ。

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賢太郎 「はぁ。なんでこんな田舎なんだよっ!!
     ……大体バスも電車も少なすぎる。
     1時間に2本がデフォって、有り得ないだろ……」

 

賢太郎N「コトの発端は半年ほど前。
     俺は、都会での高校生活を満喫していたのだが、
     突然、母さんが地元に引越すと言い出した。
     どうやら、ばあちゃんの体調が悪いらしい。
     ばあちゃんの入院の連絡を受け、
     一人暮らしのばあちゃんに、この先何かあったら、と、
     母さんは、面倒をみたいと父さんに相談した。
     それに賛成した父さんは、早々に実家から通える支社への転勤希望を出した。
     そして。
     準備が整った後、俺に報告がきたというわけだ。
     俺は悩む暇もなく、勿論納得するわけもなく、
     このド田舎に引っ越してくるしかなかった……」

 

 

 

賢太郎 「いや、わかるけどさ!
     母さんがばあちゃんの事心配なのも当然!
     父さんが母さんの気持ちを汲んですぐ転勤を決めたのも男らしい!
     だから誰が悪いとかじゃないし、
     むしろ異を唱える俺が悪いのもわかるんだけど!
     ……せっかく入った高校なのに、
     すぐ転校して田舎暮らしなんて、簡単に納得なんかいくかよ……」


賢太郎 「……ん? なんだこの音?
     家の方からだよな……って!? は!? 家壊してる!?」


母   「あら賢太郎、おかえり」


賢太郎 「あ、母さんただいま……じゃなくて! これどういうこと!?」


母   「ほら、リフォームするって言ってたじゃない? 今日からよ」


賢太郎 「聞いてないよ!!!」


母   「あら? そうだっけ???」


賢太郎 「待って待って。え!? 俺の荷物は!?」


母   「お母さんが適当にやっといたから、あとで段ボール確認してね。
     まったく、賢太郎ったら全然まとめてないんだもの、困っちゃったじゃない!」


賢太郎 「リフォーム自体初耳だったのに荷造りしてあったら驚きだろ!!」


母   「リフォームとは! 既存の住宅を住みやすいように改築・改装することで……」


賢太郎 「(遮る)リフォームって単語が初耳なんじゃなくて!!
     その話を一言も聞いてなかったってことだってば!!!」


母   「えーっと……だからー……この家、古いから色々不便でしょう?
     おばあちゃんが退院して帰ってくる前に、
     段差もなくして、手すりとかつけようかと思ったのよ。
     バリアフリー! ね? 大事じゃないそういうの!」


賢太郎 「……うん、まぁ、それはね。大事だと思うけど」


母   「あ、おばあちゃんにもちゃんと話してあるから大丈夫よ」


賢太郎 「じゃあなんで俺にだけ話すの忘れるんだよ……」


母   「アハハ!! ごめんごめん!」

 

賢太郎N「この町に来て1ヶ月とちょっと。
     やっと慣れてきたばあちゃんの家が、
     今無残にも目の前で壊されている……」

 

母   「壊してるわけじゃないわよー。
     これから生まれ変わるための準備準備ィ」


賢太郎 「俺の心を読むな! てか読めるなら今度から説明忘れないで!?」


母   「はいは~い」


賢太郎 「……で、リフォーム中に住む家はどこなんだよ……」


母   「ちゃんとアパートを借りたわよ。
     大きな荷物は仕事前のお父さんに手伝ってもらったけど
     小さな荷物はお母さんが地道に車で往復したんだからっ」 ※ドヤ顔


賢太郎 「あっそう……」


母   「今やっと最後の荷物なの。あーくたびれたっ。
     賢太郎も乗せてってあげたいんだけど、助手席も埋まっちゃってるから、
     悪いけど、ちょっとここで待っててちょうだい」


賢太郎 「……了解」


母   「じゃあいってきま~す」

 


賢太郎 「……ったく……。
     待ってろっつったって家はこんなだし、
     何してりゃいーんだ」


賢太郎 「……暇だ。
     なんか携帯でゲーム……うっ充電切れ!
     とことんツイてないっ!!」


賢太郎 (……前は、こんなに退屈じゃなかった。
     部活とか、塾とか。
     学校の奴らと、意味もなくぶらぶらしたりとか。
     それなりに楽しくやってたよなぁ。
     こっちじゃ、そんなことする場所もなければ、
     一緒に遊べるやつだっていない。
     戻りたいなあ……)


    SE:足音


ササラ 「……ちょっと、そんなとこでぼーっとしてると危ないよ!」


賢太郎 「えっ? あっ、ごめんなさい……?」


ササラ 「……えーっと……何か御用?」


賢太郎 「御用?
     いや、ここ俺ん家、……っつーのも違うか、えーっと……」


ササラ 「あ、なーんだ、この家の方だったんですね」


賢太郎 「ええ、まぁ、そうです、はい」


ササラ 「今回はお仕事ご依頼いただきましてありがとうございます。
     私、新井産業の、新井ササラと申します。
     若輩者ではございますが、
     大切なお家、大事に預からせていただきます」


賢太郎 「あ、えっと、はい、よろしくお願いします……?」


ササラ 「アハ、なんでそんないちいち疑問形で話すの?」


賢太郎 「いや、だって……。
     え、これ何かの素人ドッキリ企画的なあれ?
     俺とそう年も変わらないような女の子が業者なわけ……」


ササラ 「この世界、中学出てすぐ働く人なんて珍しくないよ」


賢太郎 「えっ!? マジで?!」


ササラ 「……都会じゃ進学が当たり前か。
     土方(どかた)で働くなんて選択肢まずないよね」


賢太郎 「うん、ない、有り得ない」


ササラ 「そっか。
     ……あ。その制服、松浦中央高等学院でしょ」


賢太郎 「え、あ、ああ。知ってるんだ?」


ササラ 「あたしも通ってるから」


賢太郎 「えっ!?」


ササラ 「っていっても、あたしは全日コースじゃないから、
     学校で会ったことはたぶんないよね」


賢太郎 「ない、と思うけど……。
     えっ、働きながら、高校に、ってこと??」


ササラ 「そうそう。
     あたしはフレックスコースだから。
     仕事がないときに学校行くカンジなの」


賢太郎 「そんなことできるんだ……」


ササラ 「中学でいじめられてた子とか、
     働いてる子とか、子供育てながら、とか。
     年齢もそうだし、いろんな事情の子がフレックスにはいるよ」


賢太郎 「へぇ……
     ん?年齢? 年も違ったりするんだ」


ササラ 「うん。あたしは19だけど、学年は高2」


賢太郎 「あ、同級生……」


ササラ 「あ、ほんと?
     でも、えーと、あなた……」


賢太郎 「あ、俺、相馬賢太郎です」


ササラ 「ケンタローね、おっけ。
     ケンタローは普通に16とか17でしょ」


賢太郎 「はい、17です」


ササラ 「……同級生なのになんかかたいなー」


賢太郎 「だって初対面だし、年上だし、
     新井さんがフレンドリーすぎるんじゃ……」


ササラ 「新井さんってのも他人行儀」


賢太郎 「他人じゃないですか!!」


ササラ 「はは、ケンタローって面白いね!」


賢太郎 「どこがですか!!
     俺まともなこと言ってるだけですからね!!」


ササラ 「ねえ。ササラって呼んでよ。せっかく同級生なんだから仲良くしたいな!」


賢太郎 「えぇぇ……同級生とはいえ初対面の年上の女の人を
     名前呼びはさすがにハードルが高いです……!」


ササラ 「そっか、じゃあこれから徐々にってことで!
     よろしくねっ、あたしは勝手にケンタローって呼ぶけどいいよね?」


賢太郎 「は、はい……」


ササラ 「で、ケンタローは解体中の家の前で何してたの?」


賢太郎 「ああ、母を待ってたんです」


ササラ 「待ち合わせかなにか?」


賢太郎 「いや、普通に帰ってきたら、この状態で。
     リフォーム中の仮住まいの場所を知らされてなくて。
     というかむしろリフォームすることすら知らされてなくてっ……」


ササラ 「あっはは!!
     相馬さんってご夫婦そろっておっとりしてるもんね~!」


賢太郎 「そーなんです……」


ササラ 「リフォームの打ち合わせに同席した時、
     何度も笑いが起きてたもんなあ~」


賢太郎 「うわぁ、ご迷惑おかけしてるんですね……。
     何かあったら俺に言ってください。
     時々とんでもないことやらかすんでほんと」


ササラ 「ふふふ。
     っと、そろそろ水汲みにいかなきゃ。
     もうすぐ壁と床の解体が終わるから、
     あたしの仕事も始まるんだよね」


賢太郎 「仕事……、新井さんは、大工なんですか?」


ササラ 「違うよ。あたしは洗い屋」


賢太郎 「洗い屋?」


ササラ 「ははっ、やっぱ洗い屋は、大工や左官屋と違って馴染みないよね!」


賢太郎 「初めて聞きました。
     どんなお仕事なんですか」


ササラ 「洗い屋は、柱や梁、木の細工なんかを綺麗にするのが仕事なの。
     新築物件ならそこまで大変じゃないけど、
     ケンタローの家みたいに歴史のある日本家屋は、長年の汚れがいっぱいついてるでしょ。
     それを洗い流してあげると、木も元気になって、これからも家を支え続けてくれる。
     これ、大切なメンテナンスなんだよ」


賢太郎 「へぇ……そうなんですか」 ※よく分かってない


ササラ 「ごめん、ちょっと語りウザかったかな」


賢太郎 「そんなことはないですけど」


ササラ 「いやー仕事のことになると熱くなっちゃうんだよね!
     ケンタロー、そういうのない?部活とかさー」


賢太郎 「帰宅部なんで」


ササラ 「そうなの?
     あ、そっか、こっち越してきたばっかりだっけ……途中からじゃ入りにくいかー。
     前の学校でも帰宅部?」


賢太郎 「卓球やってたんだけど……なかったから」


ササラ 「あーー……タイミング悪いね。
     廃部になったのって確か去年とかだったと思う」


賢太郎 「そう聞きました。
     だから別に、帰宅部でいいかなって」


ササラ 「趣味とかやりたいこととかはないの?」


賢太郎 「特には」


ササラ 「……ふーん……」


賢太郎 「……どうせ、この町じゃ、俺のやりたいことはできないんで」


ササラ 「……そのやりたいことって?」


賢太郎 「……別に」


ササラ 「聞いたらだめなこと?」


賢太郎 「そうじゃないけど。……普通ですよ」


ササラ 「うん。なになに?」


賢太郎 「……普通に、生活したい」


ササラ 「え……?」


賢太郎 「わからないでしょうね。
     こっちは、何もかも向こうとは違う。
     こんなゆるーい空気じゃ、俺の将来、どうなっちゃうんだって……」


ササラ 「そんな不安になるほど、ゆるい……かなあ?」


賢太郎 「都会じゃ、高校進学だって戦争なんですよ。
     俺、中学では大会に出るくらい部活頑張ってました。
     塾も行ってたから、両立が大変で。
     でも、だからこそ、志望校に受かったときはすげぇ嬉しかった。
     友達とやったなーってハイタッチして。
     みんな将来の為に、頑張って頑張って、勝ち取っていくんです。
     でも、こっちはそうじゃないでしょう?」


ササラ 「確かに……戦争、ってほどじゃあ、ないね」


賢太郎 「高校入って、そのまま楽しくやってたんだ。
     友達とも、部活も、勉強だって。
     そうやって普通に、俺は、生活してたのに。
     転校で……全部、なくなった」


ササラ 「……確か、おばあちゃんが入院されたから引っ越してきたって聞いたけど……」


賢太郎 「そう。……ばあちゃんのせい」


ササラ 「そんな言い方は……!」


賢太郎 「だから誰も責められない!!
     転校するのも、こんな田舎で生活すんのも、卓球ができないのも!!
     ……しょーがないじゃないかっ……」


ササラ 「しょーがない……。
     ……そっか……」


賢太郎 「……」


ササラ 「……ね、ちょっと水汲み、手伝ってよ」


賢太郎 「は?」


ササラ 「二人でやれば一回で終わるからさ。
     ね?お願い。
     ……どうせ暇でしょ?」


賢太郎 「……はあ……」(戸惑いの返答、ためいきではない)
    
    

 ……井戸で水を汲んだ帰り道

 

 

 

ササラ 「…………あたしはさ」


賢太郎 「え?」


ササラ 「あたしは、この町が好きだよ。洗い屋の仕事も。通ってる高校も」


賢太郎 「……ソーデスカ」


ササラ 「わかってるよ、それとケンタローの気持ちは別だって。
     でも、いつか、あたしが好きなこの町や、高校も、
     好きになってくれたら嬉しいなって思う」


賢太郎 「……」


ササラ 「いつか、でいいから」


賢太郎 「そんな日が来ればいいけど」


ササラ 「……。あたしは……。
     って、これだと自分語りばっかりになっちゃうなあ」


賢太郎 「別に気にしませんよ今更」


ササラ 「……あたし、子供の頃は、洗い屋って仕事、嫌いだったんだ」


賢太郎 「え?」


ササラ 「ほら、子供の頃だと、名前だけで判断するじゃない。
     洗い屋の新井さんだからさ、超からかわれたのね」

賢太郎 「ああ……」


ササラ 「もうほんっとこんな洗い屋なんてわけわかんない仕事やめてよって思ってた。
     でも……中学生になったばっかりの時、
     おじいちゃんの仕事場に行く機会があって、
     そこで初めて、洗い屋の仕事を見たの。
     ……まっくろに汚れてた木が輝きを取り戻して、その家がすごく明るくなってた。
     空気まで違うのよ! 
     ……木が生き返ったんだってわかった。
     そんな仕事をするおじいちゃんを尊敬したし、
     今まで洗い屋を否定してた自分がすごく恥ずかしくなった」


賢太郎 「……でも、それで中学出てすぐ働こうって発想になるんだ?」


ササラ 「罪滅ぼしってわけじゃないよ。
     この仕事やおじいちゃんを誇りに思ったから、ちゃんと覚悟して弟子入りしたの」


賢太郎 「うん……」


ササラ 「でもいざ弟子入りして、仕事を覚えていく中で
     覚悟だけじゃ足りない。
     勉強も必要だって思うようになったんだ。
     それで、松浦のフレックスに入学したの」


賢太郎 「……目的がはっきりしてるって、いいですね……」


ササラ 「やりたいことをやらせてくれてる、
     あたしを信じてくれてる家族がいるからできるの。
     あたしは好き勝手してるだけだから」


賢太郎 「……」


ササラ 「だから、何が言いたいかというと……
     ……いつ、どこで、何がきっかけになるかわかんないよ、ってこと。
     ケンタローも、諦めないでほしいな」


賢太郎 「別に諦めてるわけじゃ……」


ササラ 「……そう? ならいいんだけど」


賢太郎 「……、……あれ……?」


ササラ 「どうかした?」


賢太郎 「家の前に、誰かいる……」


ササラ 「あっ……」(少女の正体に気づいて)


賢太郎 「あんなちっちゃい女の子、が、……泣いてる!? っ(走り出す)」


ササラ 「あっ待って!」


梅   「うっ……ぐすっ……」


賢太郎 「(駆け寄りしゃがんで)……どうしたの?」


梅   「ふえ……えぇぇえん……」


賢太郎 「……今日お祭りでもあったの?
     着物、可愛いね。
     おとうさんかおかあさん、一緒じゃない?」


梅   「おにいちゃん、だれ……?」


賢太郎 「俺は賢太郎。ここの家に住んでる」


梅   「……けんたろ、ここのおばーちゃんは?」


賢太郎 「あー、わかるかな……入院、してるんだ」


梅   「にゅういん……ぐすっ……ううう……」


ササラ 「(駆け寄り)ああやっぱり。
     ……こんにちは」


梅   「こんにちは……ふええ……」


ササラ 「あたしは新井ササラ。ササラでいいよ」


梅   「ササラあ……うわああん!!」


ササラ 「名前、きいてもいい?」


梅   「ううう……梅ぇ……えええん」


ササラ 「梅ちゃんか。よしよし」


賢太郎 「うちのばあちゃん知ってるってことは近所の子かな……
     いや、とりあえず交番?」


ササラ 「その必要はないよ。その子、座敷童だから」


賢太郎 「………………は?」


ササラ 「梅ちゃんは、どこから来たの?」


梅   「……ずっと、このおうちに、いたもん」


ササラ 「そっか。おうちにいたんだね。
     じゃあ、どうしてお外に出てきたの?」


梅   「だってもう、止められなくて……!
     うわあああんっ」


ササラ 「止められない?(気配を察知して)アレか……!
     わかった。大丈夫よ梅ちゃん。泣かないで」


梅   「うううっぐすっ」


賢太郎 「あの……座敷童って……」


ササラ 「ケンタロー。ちょっとこの子のこと、守ってて」


賢太郎 「はあ!?
     守るってどうやって??
     というか、守るってなんだよ!?」


ササラ 「あたしはちょっとやることがあるから」


賢太郎 「人の話聞いてくださいお願いします!!!」


ササラ 「何よ、忙しいんだから手短に!」


賢太郎 「あの、座敷童って……」


ササラ 「聞いたことないの?
     座敷童がいる家は幸せになるっていう言い伝えとか」


賢太郎 「それはなんとなく聞いたことがあるような……」


ササラ 「じゃ、わかったでしょ。解決」


賢太郎 「ええ!?いやそんな簡単なことじゃ……!
     って……ええええ!??!なななななな何を……!??!?!」


ササラ 「ちょっと身支度をね。
     一応簡易的でも整えないといけないし……と、よしっ」


賢太郎 「ううっ!?! なんか、息苦しい……?
     えっ、あっ……な、なんだあの黒い煙!!
     家の中からっ……か、火事!??!」


ササラ 「……ケンタロー、すごいね、見えるんだ。
     火事じゃないから大丈夫だよ。
     ある意味火事よりタチ悪いけど」


梅   「ごめんなさいごめんなさい……
     おさえられなくて、おっきくなっちゃった……ううう」


ササラ 「だーいじょーうぶっ。あたしに任せて!」


賢太郎 「これってこれってこれって……うわああ……」


ササラ 「もー静かにしててよ!!
     梅ちゃんが怖がるでしょ?!」


賢太郎 「あ……ごめん……」


梅   「ええええええんっ」


賢太郎 「ご、ごめんね。
     君も怖いよね。でも、きっと大丈夫だよ。
     ……俺もよくわかってないけど、……大丈夫だよ」


梅   「ううう……」


ササラ 「……ケンタローはこの町に来たばかりだから、知らないと思うけど。
     この町にはね、『家神様(いえがみさま)』っていう家を守る神様の伝説があるんだよ」


賢太郎 「いえがみさま……?」


ササラ 「今でも家神様をちゃんと信じてるのは、おじいちゃんの世代の人か、
     家に関わる業者くらいなんだけど。
     でも、確実に家神様は、いらっしゃるの」


賢太郎 「座敷童の次は神様デスカ……」


ササラ 「でも、人の気が悪かったり、土地が悪かったり、
     何らかの要因で、家神様がよくないものを溜め込んで、病んでしまうことがあるのね。
     家神様が病むと、家とそこに住む人を守れなくなって、
     事故とか色々起こったりするから、
     定期的に家を洗うのが、この町では普通なんだ。
     ……でも、この状態じゃ、ただ洗うだけじゃだめ。
     ちゃんとあらわないといけない」


賢太郎 「言ってることがぜんっぜんわかんないですが……」
  

ササラ 「さっき説明したでしょう?
     家を綺麗にするのが洗い屋の仕事だ、って。
     病んでしまった家神様が溜め込んでる、よくないものを清めて祓い綺麗にする、
     それが洗い屋のもう一つの仕事なの」


梅   「ササラ、たいせつなの!! このおうち!! たいせつなの!!
     いえがみさまもおばあちゃんも守りたかったのに…!!」


ササラ 「わかってるわ梅ちゃん。大丈夫。
     ……今から『綺麗に』するからね……!」


賢太郎 「……!? また空気が変わった……」

 

 

 

ササラ 「『此の家(や)に御座(おわ)す 掛(か)けまくも畏(かしこ)き 
      家大御神(やのおおみかみ)の大前(おおまえ)を
      拝(おおが)み奉(まつ)りて 恐(かしこ)み恐(かしこ)みも白(もう)す』」

 

 

 

賢太郎 「青い、光……」

 

 

 

ササラ 「『高き尊き 神教(みおしえ)のまにまに
      誠(まこと)の道に違(たが)うことなく
      直(なお)き正しき真心もちて
      祓(はら)いたもう 清めたもう』」

 

 

 

梅   「……うっ……うっ……ひっく……」(ずっと泣いてる)


賢太郎 「……えっと、君……梅ちゃん、だっけ」


梅   「……うん?」


賢太郎 「梅ちゃんは、ばあちゃんの家に、ずっと住んでたのか??」


梅   「うん。おばあちゃんといっぱい遊んだよ。
     だから、守りたかったのに、……ご、ごめんなさい……うう」


賢太郎 「ありがとな」


梅   「え……」


賢太郎 「……守ってくれて、ありがとな」


梅   「え、でもおばあちゃん……」


賢太郎 「ばあちゃん今入院してるけど、すぐ元気になって戻ってくる。
     そのために今、家リフォームしてんだから。
     ……梅ちゃんも、すぐばあちゃんと会えるから。
     だからもう泣くな、謝んなくていいんだよ」


梅   「けんたろ……」

 

 

 

ササラ 「『今!
      悪しきを!
      祓いたもう!!
      清めたもう!!!』」

 

 

 

賢太郎 「…………空気が、軽くなった……?」


ササラ 「……ふぅ……うまくいったわ」


賢太郎 「終わった、のか?」


ササラ 「ええ。ちゃーんと綺麗に、なったわよ!」


梅   「……あ、ありがとう……!」


ササラ 「どういたしまして」


梅   「すごいすごい! ササラすごい!
     ありがとーー!! きれいになったーーー!!」


ササラ 「ふふふー」


賢太郎 「……すげえな」


ササラ 「……え?」


賢太郎 「……うん、確かにこんなの見せられたら、……
     素直に尊敬するよ」


ササラ 「えっ」


賢太郎 「さっきまでと空気が全然違う。
     黒いモヤだって、どこにもないし。
     夢だったんじゃないかって……いやでも、絶対夢じゃないし。
     ……洗い屋って、すごいな」


ササラ 「ありがとう……なんかそんなマジなテンション、照れすぎて困っちゃうなア!
     普段こういうのは人前じゃ絶対やらないの。
     今日はほんっと特別なんだからね」


賢太郎 「そっか。
     じゃ、ラッキーだったのか」


ササラ 「まぁ梅ちゃんもいたからっていうのもあるけど」


賢太郎 「……幸せを運ぶ座敷童に、家神様、か……。
     もしかしてこの家、最強……?」


ササラ 「あはは! そーだよ、最強だよ!」


  ……母が帰ってくる


母   「賢太郎~お待たせ!」


賢太郎 「母さん」


母   「あら? ササラちゃんじゃない。
     洗い屋さんは今日から入るの?」


ササラ 「はい、大切に預からせていただきますね」


母   「よろしくね~。
     ……んー? んんーー…??」


ササラ 「?」


賢太郎 「どうしたんだよ母さん」


母   「まさかとは思うけど……
     賢太郎、ササラちゃんに手出したりしてないでしょうね?」


賢太郎 「ぶっ、な、なにいってんだよ!!! あるわけないだろう!!!」


母   「勉強ばっかやってた賢太郎にはそんな度胸ないかー
     せっかく可愛い女の子と二人っきりでも、賢太郎じゃあねえ~~」


賢太郎 「どういう意味だ!!」


賢太郎 (……あれっ、二人っきり?)


ササラ 「普通の人に座敷童は見えないから」


賢太郎 「あ、そうなのか?」


ササラ 「見える人の方が少ないの」


賢太郎 「へえ~……」


梅   「えへへーけんたろけんたろー!(賢太郎にとびつく)」


賢太郎 「ん? (後ろからとびつかれてバランスを崩す)うっわあ!!!」


母   「……どうしたの?いきなりすっころんで。
     やだやだ、都会っ子はもやしなんだからー」


賢太郎 「ちがっ俺のせいじゃ……
     ちょ……梅ちゃん、なんでいきなりとびついてきたの!(小声)」


梅   「あそぶ!」


賢太郎 「遊ぶってったって……」


母   「ササラちゃんはお仕事中なのよ?
     デートなら休みの日にしなさいね、ご迷惑だから」


賢太郎 「ぃい!?
     いやそういうことじゃなくて!!」


ササラ 「あはは、遊べばいいじゃない」


賢太郎 「笑ってないで助けてください!!!」


ササラ 「なんで? いいじゃない。
     最強の家に加えて、座敷童に好かれたなら、もう人生勝ったも同然だよ?」


賢太郎 「ええっ!?」

 


賢太郎  バスや電車の本数が少ない。
     学校は退屈だ。
     やりたい部活もないし、放課後遊べる場所もほとんどない。
     それでも。
     この町で過ごす日常に、少しだけ、希望が見えたかもしれない。

 

梅   「けんたろとあそぶー!
     おばあちゃん帰るまであそぶーー!!」


賢太郎 「こ、子供の相手なんてしたことねえよおおおう……」

​完

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